「診療看護師(NP)」の名称に至った経緯日本NP学会 理事長 草間 朋子
「診療看護師(NP)」の名称に至った経緯 平成29(2017)年4月に厚生労働省から公表された「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働 き方ビジョン検討会報告書」(平成29(2017)年4月6日)や,平成30(2018)年2月の「医師の働き方改 革に関する検討会 中間的な論点整理」(平成30(2018)年2月27日)の中で,「診療看護師(仮称)」の名 称が使われ,その必要性についての検討が必要であることが明示されており,本協議会としては,今後の制度 化に向けての弾みになればと期待している. 本協議会は,平成20(2008)年に,大分県立看護科学大学において養成が開始され,現在8大学院(本協 議会加盟校)で養成教育が行われている診療看護師(NP)に関して,養成教育の標準化(大学院修士課程), 診療看護師(NP)としての質保証,制度化等の活動を行っている. 少子高齢化社会,人口減少社会への対応として,タスクシフト,タスクシェアリングなどの検討が進められ ている中で,本協議会の加盟大学院において養成している,「診療看護師(NP)」の呼称の決定に至る経緯等 を備忘録として残しておく必要があるのではないかとの助言をいただき,筆を執ることとした. 日本NP教育大学院協議会(以下,NP協議会という)は,診療看護師(NP)を,「対象者のQOLの向上を 目指して,対象者の「症状マネジメント」を,自律してタイムリー,かつ,効果的・効率的に行うことができ る看護職」としており,この解釈に関しては,養成教育を始めたときから変更していない. 平成20(2008)年に養成教育を開始した時には,アメリカの呼称をそのまま用いて,養成する人材の呼称 を「ナースプラクティショナー」と呼んでいたが,平成23(2011)年度から「診療看護師(NP)」と呼ぶこ とに決定した.これは,NPを社会の中に定着していく上で,NPの存在,役割等を患者さんあるいは国民の みなさまに広く知っていただく必要があり,そのためには,分かり易い,イメージし易い言葉,とくに日本語 の名称を使っていく必要があると考えたからである.「ナース」については,どなたからもほぼ同じイメージ を持ってもらうことができるが,「プラクティショナー」は,医療スタッフにとっても,馴染みの薄い言葉で ある. 「名は体を表す」と言われるように,呼称は極めて大切である. 「ナースプラクティショナー(NP)」の日本語化にあたっては,できるだけ多くの方々のご意見を伺うこと が賢明であると判断し,平成23(2011)年4月,日本NP協議会(平成23(2011)年時の本協議会の名称) のホームページ上で,「養成しようとしているNPの役割等」を示した上で,NPの日本語訳を公募した.その 結果,複数の方から応募をいただいたが,これはと思う名称がなかった.そのような中で,読売新聞が「医療 ルネッサンス」という連載記事の中で,日本NP協議会が養成している「ナースプラクティショナー」に対し て「診療看護師」という用語を使っているのを目にし,これが,日本語名称としNPの役割等を的確に表現し ていると判断し,正式名称として使わせていただくことに決定し,日本NP協議会の定款上の名称も,「診療 看護師(NP)」と変更した. 日本NP学会誌 2018 vol.2 no.1 平成21(2009)年以降,用いてきた「日本NP協議会」(平成20(2008)年に,日本NP連絡会としてス タートした)の名称についても検討することとし,①養成教育をNPとしてスタートしたことを将来にわたっ て残すこと,②NPの教育を大学院(修士課程)で行うことを明示すること,③長い表現の名称を避けること を考慮して,「日本NP教育大学院協議会」とした.協議会の名称を変更すると同時に,任意団体であった「日 本NP協議会」を,平成25(2013)年3 月に,一般社団法人「日本NP 教育大学院協議会」(JONPF: Japanese Organization of Nurse Practitioner Faculties)とし,法人格を持った組織として,新たなス タートを切った. 一方,NP協議会は,平成25(2013)年4月に,経済産業省特許庁に対して,「診療看護師(NP)」「NP」 の呼称の「商標登録」を,「早期審査に関する事情説明書」を添えて出願した.しかし,NP協議会の出願に対 してある団体からの反対があり,出願を却下するとの連絡が10か月後にあった. NP協議会としては,今後も,大学院修士課程の教育を通して,NP協議会の規定している7つ能力(①包括 的な健康アセスメントの実践能力,②医療的処置マネジメントの実践能力,③熟練した看護実践能力,④看護 管理能力,⑤チームワーク・協働能力,⑥医療・保健・福祉システムの活用・開発能力,⑦倫理的意思決定能 力)を備えた看護師を「診療看護師(NP)」として養成し,現在,NP協議会が実施している資格認定試験 (平成22(2010)年度から実施),資格更新制度(平成29(2017)年度から実施)等により質の担保を図る とともに,制度化に向けての活動を地道に継続していく. 平成30(2018)年3月の時点で,NP協議会で実施している資格認定試験に合格した「診療看護師(NP)」 は,すでに,359名となり,「診療看護師(NP)」としての実践が,患者さんは勿論のこと,医療スタッフか らも高い評価を受けていることが,NP協議会の今後の活動の励みになっている. 平成30(2018)年4月 一般社団法人日本NP教育大学院協議会 会長 日本NP学会 理事長 東京医療保健大学 副学長 草間 朋子
診療看護師による入院高齢患者の薬剤総合評価の効果:症例報告The effect of nurse practitioner’s pharmacology evaluationin older adults on admission-case report本田 香
【緒言】 高齢社会がすすみ,高齢者における薬物有害事象が問題視されている.高齢者総合診療領域での診療看護師に よる薬剤総合評価が,患者の療養生活における症状マネジメントを含め,療養生活の質向上等に有効と思われた 3例を経験したので報告する. 【症例】 症例1は,90歳男性,誤嚥性肺炎で入院加療中であった症例である.薬剤総合評価と調整を通じて,誤嚥性 肺炎再燃予防,不眠に対する症状マネジメント等をおこなうことで,家族の介護負担軽減にも努めた.症例2は, 97歳女性,眠剤調整の結果,食思不振と不眠の症状マネジメントを通じて,家族の態度の変容をももたらすこ とができた.症例3は,84歳女性,薬剤総合評価が,認知症や嘔気の症状マネジメントの上でも重要であった. いずれも診療看護師単独,あるいは薬剤師と診療看護師が協働して薬剤総合評価をおこない,医師に提案した症 例である. 【考察】 診療看護師による薬剤総合評価は,症状マネジメント,医療費削減,患者・家族の思いへの配慮,他職種との 質の高い協働・教育・エンパワーメントの上で重要であることがうかがえた.それらの背景としては,診療の視 点をふまえた上で,様々な生活実態のある患者の真の問題を見出す,いわゆる包括的健康アセスメントと協働実 践能力といった診療看護師の専門性が有用であった.今後は,定量的なデータで診療看護師による薬剤総合評価 の効果を実証する必要がある. Key Words:薬剤総合評価,薬物有害事象,診療看護師,包括的健康アセスメント,協働
末梢挿入型中心静脈カテーテル(PICC)関連合併症に関する検討Review of Peripherally Inserted Central Catheter( PICC) related complications国島正義・竹田明希子・村尾正樹・岩崎泰昌
【目的】 2014年6月に保健師助産師看護師法が改正され,指定研修を修了した看護師が特定行為として一部の医行為 を手順書に基づき行えるようになった.特定行為の一つである末梢挿入型中心静脈カテーテル(PICC)挿入に 関して,当院で経験した症例の合併症について検討を行った. 【対象と方法】 2016年5月13日から2017年3月31日までに,診療看護師がPICCを挿入した218症例を対象とした. PICC挿入は全例透視下で行った.対象者のPICCに関連する合併症について電子カルテ上より後ろ向き調査を 行った. 【結果】 PICC挿入時合併症は動脈穿刺(4件),神経損傷および刺激(1件),およびガイドワイヤー通過困難(6件) を認めた.PICC挿入後合併症では静脈炎(4件),カテーテル先端位置異常(2件),およびカテーテル関連血 流感染(CR-BSI)疑い(15件)を認めた. 【考察】 PICC挿入時合併症を減少させるためには,適切な血管選択とエコーガイド下穿刺技術の習得が必要だと考え られた.静脈炎は,PICC挿入手技が未熟であったことが原因と考えられる.今回の調査ではCR-BSIと診断さ れた症例はなかった.しかし,血液培養の提出がないために診断できない症例もあった.そのため,CR-BSIの 診断基準に沿った培養の提出を徹底していく必要があると考えられた. Key Words: 末梢挿入型中心静脈カテーテル(PICC),特定行為,診療看護師,合併症
プライマリ・ケア領域の診療看護師(NP)教育に求められるもの―修了生の意見分析から―Requirements of Nurse Practitioner Education in the Field of Primary Care:An Analysis of Graduate Opinions草野淳子・小野美喜・福田広美・甲斐博美・森加苗愛宮内信治・高野政子・濱中良志・藤内美保・村嶋幸代
【目的】 A大学大学院NPコース修了生を対象に,受講した診療看護師(NP)教育課程に関する課題や修了後に職場 で求められている能力について明らかにすることを目的とした. 【方法】 対象者は,A大学院NPコース修了者10名であった.調査は2014年10月に,フォーカス・グループインタ ビューを行った.分析はインタビュー結果から逐語録を作成し,質的帰納的に分析した. 【結果】 分析の結果,14のカテゴリー,2つの大カテゴリーが抽出された.修了生は<3P教育の重要性>を述べてい た.修了後は【医師から教育を受け】,<医師とのコミュニケーション力やプレゼンテーション力>が必要であっ た.一方で修了生は,<自分の役割を見出す苦労>があり,【病棟を超えた活動】や【看護師への教育】を行っ ていた.<患者をとらえる幅の広がりがNPの強み>と感じ,